・要介護認定 「実態反映」探る現場

平成11年11月1日 読売新聞より

 保険料徴収の凍結など介護保険制度の見直し論議が波紋を広げる中、要介護認定が全国の自治体で進む。介護サービスの内容を決める根幹の作業となるだけに、認定審査の難しさが浮き彫りになる一方で独自の工夫も目立つ。模索の続く最前線を取材した。


◆訪問調査

 東京都町田市の住宅街。10月26日、84歳になる寝たきりの宮原マサさん(仮名)宅を要介護認定の訪問調査員、河合朋子さんが訪れた。

 河合さんは、市の在宅介護支援センター所属の看護婦だ。マサさんに声をかけ、顔をのぞき込む。反応はない。重度の痴呆のマサさんに代わって、二男の妻恵美子さん(仮名)が、河合さんの質問に答える。
 目は見えますか?
 「視力がないわけではないけれど、何を見ているか本人は判断できません。」
 食事の時、飲み下しはできますか?
 「バナナのすりつぶしやスープなどの流動食を、のどをさすったりしながら1時間半から2時間かけて食べさせています。病院や施設ならチューブで栄養を送り込む(経管栄養)のでしょうが、そうしたくないので、ヘルパーさんに来てもらっています。」

 マサさんは現在、毎日計7時間、民間ヘルパーの派遣を受けている。自己負担額は月36万円に上る。介護保険で要介護度が最高の「5」と認定されると、36万8千円分までのサービスが受けられる。それでも、サービスを受ける時間や内容は現状よりも不足する。恵美子さんは「足りない分は全額自己負担の民間サービスに頼らざるを得ない。ただ、金銭的な負担は少なくなるはず」と言う。

 昨年の認定作業のモデル事業では、マサさんは「一次判定が予想外に低く、二次でも(要介護度5より)低かった」と関係者は言う。恵美子さんは判定に不安を抱き、その後、訪問調査への答え方を勉強してきた。
 認定結果は今月中に通知される。恵美子さんは今、「介護保険は最低限のところだけを面倒見てくれる制度」と割り切っている。

 東京都町田市や稲城市では、厚生省の調査票とは別に住宅事情や介護の状況などに関する独自の調査票を作った。介護認定審査会で参照し、公正な判定につなげようという工夫だ。
 訪問調査の際に使うマニュアルを作った自治体も多い。熊本市では「訪問時は身だしなみを整え、所属と名前を名乗る」など、訪問調査員の心構えを説いている。相手に安心感を与え、できる限り均一な調査を目指すのが狙いだ。


◆認定審査
 
 一次判定を通して、「『痴呆で体が比較的元気な人』の場合、要介護度が低く判定されがち」(大阪府河内長野市など)といった指摘が出ている。このため、多くの自治体は二次判定に慎重な姿勢を見せている。
 川崎市が10月15日までに判定した381件のうち、一次判定の結果を変更したのは2割の76件に上った。要介護度の1ランクアップが64件、2ランクアップが4件、下がったのは8件だった。

 訪問調査票の特記事項と主治医意見書にずれがあり、判断が難しい場面も多い。熊本県の有明広域行政事務組合では10月21日に初の審査会を開催、27件を審査したが、「医師意見書では『痴呆』があるのに、調査票には記載がない」といったケースがあり、2件を再審査に回した。

 こうした食い違いなどを想定し、北海道は二次判定にあたるうえでの注意事項をマニュアル化した。「自力で動き回る痴呆のケースでは、昼夜逆転などがあれば、むしろ介護の手間は相当高くなることがあり得る」など、実態に合った判定を求めている。判定の精度アップのため、介護認定審査会に訪問調査員を同席させる自治体(大阪府美原町など)も増えている。
 しかし、10月下旬に開かれた福祉関係者の全国集会では「二次判定結果の9割以上が一次と同じという審査会もある。実態を反映しているか疑問だ」との意見も出され、審査の困難さを改めて浮かび上がらせた。

 医師の意見書が集まりにくいという事情も表面化した。「複数の医師にかかっている場合、医師同士が譲り合う」(鳥取市)、「医師が少ない町村では1人に集中する」(三重県松阪地方広域連合)などが、その理由だ。栃木県西方町では10月27日に隣町と合同で第一回の認定審査会を開く予定だったが、主治医の意見書が間に合わず、1週間延期するという事態になった。

  


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