・介護報酬額 高め設定
 民間参入 事業展開幅広く

平成11年8月24日 読売新聞より

 介護保険でサービス提供者に支払われる介護報酬額(仮単価)が公表されたが、訪問介護単価は予想以上に高く、民間事業者の大幅な参入増が見込まれる。民間の存在は、介護サービスの全体量確保とレベルアップに大きな役割を果たすと見られる。だが、契約に絡むトラブルの防止や、サービスの質のチェックなど、問題点も少なくない。介護保険制度のカギを握る民間参入への期待の背景と、今後の課題を探った。

 介護保険では、在宅サービスが民間企業にも全面的に開放される。これまで訪問介護などの高齢者福祉は、自治体や社会福祉法人などに独占されがちだったが、今後は、ホームヘルパー派遣などの在宅サービス事業や、介護計画作成などの在宅支援事業に多くの民間事業者が参入を計画していることが、本社全国調査結果でも改めて裏付けられている。

 池田・龍谷大助教授は「多数の民間参入でサービスを提供する事業者を選べるようになれば、質の低いサービスでは利用者がいなくなり、悪質業者は淘汰される。競争は、確実に全体のレベルアップにつながる」と、プラス面を強調。公表された仮単価について、「これなら、民間参入は急速に進み、サービス基盤は整備されるだろう」と予想する。

 単価が高めになったことによる保険料アップは30円ほどで、利用者の負担増を極力抑えながら、民間参入の促進を図ったと言える。
 当の民間側も、こうした厚生省の”作戦”を好意的に受け止めているようだ。94年に初の24時間巡回型介護サービスをスタートさせ、すでに自治体からの委託も受けている「コムスン」(東京都新宿区)の折口社長は、「(仮単価は)予想以上で、これなら、我々のようにすでにノウハウがある企業は、ヘルパーの待遇を良くしながら研修を充実して、より質の高い介護サービスを提供できる。経営手腕に自信がない事業者でも、情熱があれば参入が可能で、競争は激しくなる」と語る。

 今回の仮単価を使って、事業収支のシミュレーションを行ったニッセイ基礎研究所の岸田主任研究員も、「ヘルパーの稼働率がやや落ち、待機時間が増えても、採算がとれそうだ。介護市場は保険給付以外にも発展する可能性があり、このことが民間の参入意欲をさらに刺激するのではないか」と分析する。

 介護保険の市場規模は、2000年4月時点で4兆2000億円と言われているが、同研究所では、限定される保険給付以外に、高齢者が自前で事業者に依頼するサービスなども含めて、8兆5000億円という数値を試算した。岸田主任研究員は「介護保険を通じて、介護サービスを外部の人に頼むという発想が高齢者の側に生まれ、そのニーズに応じて、事業者側は多彩なサービスを工夫する。そうなれば、介護市場は公的保険以外にも大きく発展するはずだ」と話している。

 ただし、全国どこでも民間サービスが潤沢に供給されるとは限らない。過疎地や離島では、ヘルパーの移動コストも高く、効率も落ちることなどから、今回の報酬単価でも採算がとれないと判断される恐れがある。民間の競争原理から取り残される地域をどうカバーするのかは、依然、課題として残っている。
 


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