・「要介護認定」来月スタート
 前倒し申請 苦情調整員 苦心の自治体

平成11年9月3日 読売新聞より

 要介護者のランクと介護サービスの内容を決める、介護保険制度の要介護認定作業のスタートまで1ヶ月を切った。認定に適切さを欠けば、住民の不公平感が募り混乱を招くだけに、各自治体とも頭を悩ませる。認定申請を前倒ししたり、介護認定審査会の運営に独自の工夫を凝らすケースも出ている。

 山形県鶴岡市は、介護保険の基盤となる介護サービス計画づくりに手間取らないよう、先月24日から認定申請の受け付けを始めた。市は申請者総数を約2,800人と試算、要介護度を最終的に決める介護認定審査会を10月中旬から毎週3回のペースで開く。1回に40人分を処理するとしても、来年3月中旬までかかり、「今から手続きを始めても作業が終わるのはギリギリ」という。
 京都府伊根町も8月下旬から約160人に申請用紙を配布、80%を回収した。8千〜9千人の申請を見込む広島県呉市は今月1日から受け付けを始めた。

 都市部でも前倒しを予定している自治体は少なくない。16,000人が申請すると予測している大阪府堺市は13日から、現行の福祉サービスを受けている約4,500人を対象に、申請受け付けを市役所と市内6ヶ所の福祉事務所で始める。
 同様の動きは、山形県藤島町や新潟県新発田市、北海道長沼町、栃木県二宮町、長野県北御牧村など、全国に広がっている。

 各自治体が準備を急ぐ背景には、さらに要介護認定の分かりにくさがある。
 昨秋、全国で実施された要介護認定の試行では、コンピュータによる1次判定に疑問符が付いた。重度の人を軽く判定するなど、厚生省のソフトに実態とのズレが目立ったからだ。
 同省はこの夏までにソフトを改良したが、新ソフトを検証した東京都武蔵野市によると、それでも、102例中19例で改良前よりも要介護度が1〜2ランク低くなった。なかには「身体の状況が比較的しっかりした痴ほう」で、徘徊などの問題行動が頻繁にみられたのに、要介護度が5から3になったケースもあった。

 日本医師会が先月31日に行った記者会見でも、「厚生省の基準では、介護不要の『自立』と、介護が必要な『要支援』を、介護時間(25分)の長さの物差しで分けているが、この区別は分かりにくく、申請者に説明できない」といった問題点が指摘された。

 これに対し、厚生省はこのほど、1次判定の結果を安易に変えないよう求めた従来の姿勢を転換、「特に介護の手間がかかる理由が具体的に分かる場合は、1次判定を変更できる」とする新指針を策定し、2次判定重視を打ち出した。
 だが、「高齢者の状態は千差万別。国の基準はあいまいで、分類は難しい」など自治体側の不安は依然残っており、1次判定と2次判定の溝を埋めようとする試みも行われている。

 甲府市では、利用者が判定結果を不服として県介護保険審査会に異議を申し立てる前に相談に応じる「苦情調査員」(仮称)を、武蔵野市も同様の趣旨で、「サービス相談調整専門員」(同)を設ける方針だ。
 さらに、武蔵野市では、判定前の調査を担当した訪問調査員が、保健・医療・福祉の専門家で構成する介護認定審査会に同席することを決めた。「書類だけの審査には限界がある。必要なサービスを決めるには、実際にお年寄りを面接した調査員の話を聞くことが必要」(介護保険準備室)というわけだ。

 一方、判定の精度を上げるためには、訪問調査員が具体的な症状を特記事項として記載するかどうかがカギとなる。その際、日ごろの介護記録が利用者側にとって心強い味方となる。
 このため、「呆け老人をかかえる家族の会」では、見た目の元気さで判断されやすい痴ほうのお年寄りの介護記録をつけるよう、家族に呼びかける。さらに、調査にあたっては、@「顔は洗えるが水道の蛇口の開け閉めは無理」など具体的に説明するA徘徊の様子を近所の人に話してもらう−などのアドバイスもしている。

 


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